白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 クロードの視線がロゼリエッタに向けられた。一応、ロゼリエッタの気持ちを慮ってくれる余地はあるようだ。


 おそらくは先程言っていた西門での騒ぎに関する話だろう。ならばロゼリエッタには聞かせたくない、聞かせられない話に違いない。

 そうでなくとも、想いは報われなくとも愛する人と少しでも長く一緒にいたいに決まっている。だから本来は"このうえなく都合の良い婚約者"なロゼリエッタでも、今この時ばかりは邪魔者なのだ。


 ロゼリエッタだってクロードと一緒にいたい。けれどその気持ちもまた、彼の想いの前では報われなかった。

「私、少しホールを見て参ります」

 泣きたい気持ちを必死で笑顔の奥に押し込める。王城に来るのは久し振りだもの、と思ってもいないことさえ口にした。

 先程嘘をついたばかりだからか、二つ目の嘘を口にすることに対する罪悪感は希薄だった。だけどつきたくもない嘘であることには変わりなく、それを隠す為にさらに嘘を重ねて口数が増える。


 その事実にクロードが気がついてくれているなら、まだ救われるのに。――否、気がついてくれていても何も変わらないのなら、気がつかれていない方が良いのかもしれない。