白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 オードリーが差し出したカンテラを受け取り、ダヴィッドは代わりに手近な机の上に置いていたカンテラを渡した。

 カンテラの灯がもたないほど長い通路なのだろうか。

 果たして足手まといにならず自分の足で歩けるか心配になる。そんなロゼリエッタに、オードリーは安心させるよう笑いかけた。

「大丈夫ですよ。ロゼリエッタ様のご負担にならないペースで歩かれても灯が消えることはありません」

「ロゼ、そろそろ行こうか」

 ダヴィッドの目くばせを受け、オードリーが先を歩く。

 本棚の隙間を縫って奥の壁に向かうと、大きな額縁が立てかけてあった。

 その右側の壁に、人一人がかろうじて通れる程度の細長い縦穴が開いている。風はここから吹いているようだった。


 数は多くはないけれど、ロゼリエッタも図書室には何度か足を運んでいる。

 でも額縁の裏側なんて気にしたことはない。

 普段は隠され、固く閉ざされている扉の存在など知る由もなかった。


 扉の奥は薄暗く、そしてあまり広くはないようだ。

 目をこらしていると、灯のついたカンテラをかざしながらダヴィッドが中に入って行く。

 視線だけで追いかければ、床に四角い穴が開いているのが見えた。おそらくは隠し通路に繋がっているのだろう。

 だけど、何も知らずに見たら未知の恐怖に繋がっていると感じたに違いない。

「オードリー、最後に一つだけお願いがあるの」

「何でしょうか」

「クロード様……シェイド様に、お伝えして」

「はい」

 ロゼリエッタは胸に手を当てて目を閉じた。

 大きく息を吸い込み、吐き出しながら目を開ける。

 そしてじっと言葉を待つオードリーに、柔らかく微笑みかけた。

「もう守ってくれなくても、私は大丈夫だからと」