白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 せっかく心配して聞いてくれたのに、ロゼリエッタは曖昧に笑って答えるしかできなかった。小さな嘘をついた後ろめたさから視線を落とし、ソファの肘掛けに施された彫刻を指先でなぞる。


 普段ならお互いの近況を話し合ったり他愛のない会話ができるのに、レミリアの話題が出るのが怖くてロゼリエッタは固く口を閉ざした。そんなロゼリエッタの頑なな様子に何を思うのか。クロードも話しかけては来なかった。


 悪い意味で、二人の周囲だけが別世界に迷い込んだかのようだ。

 親しい間柄同士で交友を深める為に設けられた場所であるはずなのに、お互いの心は逆に遠ざかって行っている気がする。

 実際、ロゼリエッタといて楽しくはないだろう。ただでさえ、身体が弱いから常に体調を気遣わなければならないのだ。そのうえ気の利いた会話もできない婚約者となれば、クロードは同情の目を向けられてもおかしくはない。

「ロゼ、クロード」

 どれくらい黙り込んでいたのか。婚約者が同席しているにも拘らず甘やかな雰囲気など微塵もない場所に、透き通る声が響いた。

 レミリアだ。

 ロゼリエッタは弾かれたように顔を上げた。くだらない意地を張って時間を無駄に過ごしていたことに気がつかされても、今さらの話だ。

「今から少しクロードのお時間をいただいてもいいかしら?」