白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「俺がどうしてここにいるのか不思議そうな顔をしているね」

「それは、もちろん」

 疑問を抱いて当然のことだ。

 ロゼリエッタは一転して楽しそうなダヴィッドに向け、種明かしを求める。あまりのんびりしている時間がないのも事実で、ダヴィッドはもったいぶることなくすぐに教えてくれた。

「王城から地下通路を通って来たんだよ」

「地下通路?」

「そう。有事の際に城から逃げ出せるよう隠し通路は、もちろんこの国の王城にもあるんだ」

「有事の際……」

 ロゼリエッタは小さく口の中で反芻した。

 それはつまり、王城に攻め込まれた時のことを想定されているということだ。

 もちろん開戦などしないに越したことはない。だけど最悪の事態に対し何も備えがないのは国家として致命的で、用意して然るべきものでもあった。

「ロゼも知っての通り、この国はそういった危機に見舞われていないからね。歴史上、止むを得ず使われた記録も特にない。だからさぞや埃やカビにまみれていることも覚悟していたけど、中はそれなりに掃除が行き届いていた。お忍びで抜け道として使われているのか――」

 そこでダヴィッドは悪戯っぽく口の端を上げた。

「あるいは、君が使うから君の為に掃除をしたのか。まあ、どちらにしろ不衛生な様子はなかったよ。安心していい」

 どう安心したら良いのか疑問は残ったものの、通っても安全な道ではあるらしい。

 ロゼリエッタはほっと息を吐き、自分でも気がつかないうちに不安で強張る肩の力を抜いた。

「だいたいの話も、レミリア王女殿下から聞いているよ」

「レミリア王女殿下、から……?」

 彼女を嫌いになったわけではない。

 それでも今はまだ聞きたくなかった名に、ロゼリエッタの表情がわずかに曇る。

「時間が惜しい。歩きながら話そうか」

「ダヴィッド様、こちらのカンテラをお持ち下さい。油を上限まで入れてあります」

「ありがとう」