白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「ロゼリエッタ様?」

 知らずのうちに足を止めてダイニングを見つめていたロゼリエッタに、数歩先を歩くオードリーが心配そうに振り返る。

 もう説得力などない「大丈夫」の意を込め、ロゼリエッタは頷き返すとオードリーの元へと足を速めた。

「ごめんなさい。少し感傷に浸ってしまって」

「――はい」

 今にも泣きそうな顔を隠すよう、オードリーは再び前を向いて歩き出す。

 この先には図書室がある。他にもいくつか扉があったが、入ったことも中の様子について聞いたこともないから分からなかった。

 オードリーは閉ざされた扉たちには目もくれず、廊下の最奥にある扉の前で足を止めた。


 ノックを二つ、ゆっくりとする。

 それは中に誰かいるということを示しており、ロゼリエッタの胸がわずかな期待に小さく弾んだ。

(そんなはずないでしょう、ロゼリエッタ)

 未練がましい思いを打ち消せば、中から「どうぞ」と返事がある。

 ダヴィッドの声だ。

 シェイドも、彼と逃げるよう言っていた。

「久し振り、ロゼ……というほどでもないか」

 図書室にいたのは思った通りダヴィッドだった。

 一週間ほど前に会ったばかりの従兄は、さほどの間を開けずの再会となったことに苦笑いを浮かべている。

 ロゼリエッタもまた、何と答えたら良いのか分からなくて曖昧に頷いた。


 いつの間に案内されたのか――いや、どうして客室ではなく、図書室にいるのだろう。

 それにどこかの窓が開いて風が吹き込んでいるのか、いつもより中が冷えている気がする。さりげなく図書室内を見渡してみたけれど、少なくとも見える範囲の窓はカーテンごと全て閉ざされていた。壁に備えつけられた室内灯の淡い光で、昼間の体を装っている。