白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

(もしかしたら私はずっと、大切に守られていたのかもしれない)

 婚約の解消を告げられてすぐ、クロードは生死不明になった。

 マーガス暗殺の濡れ衣を着せられそうになった時、助けに来てくれた。その後ここに連れて来られたのも全て、隣国の王位継承問題とは無関係なロゼリエッタを匿う為ではないのか。


 守り続けていてくれる理由は分からない。

 聞いたとしても教えてはくれないことの一つだろう。

 他に想い人がいながら婚約を申し込んだことへの贖罪なのかもしれない。

 あるいは、親しい友人の妹だからよくしてくれるのかもしれない。

 なおもまだ聞き分けの良い存在でありたいから、そう信じたいだけなのかもしれない。


 それでも今のロゼリエッタには断言できる。

(クロード様は婚約を解消した後も、私の為に行動してくれていた)

 ここに来た最初の夜、守ると言ってくれたシェイドの言葉に、その想いに嘘はない。振り返れば、彼の行動がはっきりと物語っていたのだ。

 そうして、ロゼリエッタが彼の力になることはできないのだとしても、彼の為にたった一つ、ロゼリエッタだけがしてあげられることがある。

(私はやっと決めたの。だからもう、迷わない)

 ダイニングの前を通る時、自然と目がそちらへ向いた。

 陽の差し込む明るい室内には誰もいない。

 一緒に食事を摂っていたテーブルセットが佇んでいるだけだ。


 真っ白く輝くテーブルクロスは遠目にもしわ一つないのが見て取れ、今日使用された形跡もない。

 中心に置かれた、色とりどりの花が活けられた花瓶が逆に、もの悲しく見えた。


 仮面をつけて素性を隠した、元婚約者だった相手との静かな食事風景は、けれどかけがえのない時間だった。

 二度と手に入らないものだからこそ、まともな会話もなかったささやかな思い出さえ美しく思う。