白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 だが本当は誰かに肯定して欲しかった。

「クロード、君は幸せになっていい。人を好きになってもいいんだ」

 マーガスは気休めのつもりで言っただけなのかもしれない。

 それでもクロードには彼の言葉がずっと耳に残っている。

 彼女を幸せにできる人間が自分であればいいと、同じくらい願っていたのだ。


 仕方ない。

 初めて望んだのだ。

 この手の中に何か一つだけ残すことが許されるのなら、ひっそりと可憐に花開く白詰草が良いと。


 クロードではないシェイドに、ロゼリエッタは時折激しい感情を見せる。

 今まで言いたいことを飲み込ませていたのか。申し訳なく思うと同時に知らなかった彼女の一面もまた、クロードの心を惹きつけた。


 ここを出たら、ロゼリエッタはダヴィッドの手を取って幸せになる。

 共に笑って、怒って、泣いて――全てを分かち合える相手が自分であれば、良かった。

「いか……な……で」

 熱を出し、朦朧とする意識の中でもクロードの服を掴んだロゼリエッタの姿が脳裏を離れない。

 クロードの声が届かなくても「もうどこにも行かないよ」と、手を握り返せたら良かった。

 そうしたらきっと繋いだ手から、隠し続けていたクロードの気持ちが伝わっていた。


 だけど。

「資格もないのに好きになって、ごめん」

 いつも握り返せずにいた小さな手の代わりに自分の手を握り込む。

 手の中には、何もなかった。




 中庭に出れば、ロゼリエッタはすぐにここが王城内の一角だと気がついた。


 そんなに顔を合わせていないマーガスもそう評していたように、彼女は愚かな少女でも、子供でもない。

 本音を言えばずっと気がつかずにいて欲しかった。だが王城の一角である尖塔を見たらいやでも気がつく。