白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 いつしかクロードはひどく落ち着かない気持ちになっていた。


 気がついてしまったのだ。

 クロードの世界が、当たり前のように色づいている。その中心にいるのは紛れもなく笑顔を浮かべたロゼリエッタだ。

 仲の良い兄ではなく、クロードを応援してくれている。一緒に兄上を倒そうと持ちかけたから、行きがかり上そうしているだけなのかもしれない。それでも心の奥がひどく暖かくてくすぐったかった。


 ずっとクロードの隣にいて欲しい。


 そんな願いが初めて心の中に芽生えて来る。

 同時に初めて知った。

 恋をした父も母も、こんな想いを抱いていたのだと。



「やあ、いらっしゃいクロード。ロゼなら今は庭園にいるはずだよ」

 それからはできる限りカルヴァネス家に足を運んだ。

 クロードの魂胆を見抜いたのか、出迎えるレオニールはいつもにやにやとしている。それは面白くないことではあったけれど、ロゼリエッタの体調が良い時は理由をつけて呼んでくれていたし、彼女に会えばそんな気持ちは吹き飛んだ。


 ただ、ロゼリエッタの体調が良くない時も少なくはなかった。もちろん無理を通して部屋に押しかけることもできず、会えない度に彼女を守りたい気持ちが強くなるばかりだ。


 お守りだと言って小さな巾着袋を渡して来たその姿に、クロードは胸がいっぱいになった。

 なんていじらしく、可愛いのだろう。

 愛しくて上手く言葉が出て来ない。ありがとうとお礼をようやく絞り出しはした。だが、ひどくそっけなくてぶっきらぼうな態度に見えてしまったに違いない。


 お返しに何をあげたら喜んでくれるだろうか。

 高価なアクセサリーはロゼリエッタの性格を思えば、きっと受け取ってもらえない。ならば普段から気兼ねなく使ってくれるような、綺麗なリボンはどうだろうか。クロードは可愛いものが何か良く分からない。だが、ロゼリエッタに似合いそうなものを探すことは楽しかった。