幸いなことにクロードの目元はマチルダに、グランハイム公爵に少し似ている。公爵家の血が入っていること自体は事実なのだから、当然と言えば当然だ。

 それでも両親のどちらとも違う目の色ばかりは誤魔化しようがないが、公爵夫人が母方の祖父と同じ色だと公言すれば、誰も異論を唱えることは出来なかった。

「大事件が起きたのは、その矢先だ」

「大事件とは?」

「アーネスト殿下が馬車の事故で亡くなったとの報せがもたらされたのだよ」

 ほんの一瞬、クロードの呼吸が詰まった。

 彼の置かれている立場を思えば、その疑い(・・・・)が出るのは当然だろう。父も苦々しい色を目に宿して先を続ける。

「本当に事故だったのか。それは誰も知らない。グスタフ王太子殿下やアーネスト殿下と対立していた第二王子フランツ殿下が疑われはしたものの、彼が働きかけたという証拠も何一つ挙がらなかった。それっきり――殿下の葬儀に参列を許されることもなく、隣国の王家と我がグランハイム公爵家は一切の繋がりを持たずにいる」

 真実を知っても、クロードはやはりグランハイム公爵家の三男だということに変わりない。もちろん隣国との接点も持ってはいなかった。


 そして大人になるにつれ思うのだ。マチルダは誰にも悟られることなくゆっくりと、けれども着実にアーネストの後追いをしたのではないかと。

 もちろんそれは結ばれないままに儚くなった実の両親に対し、クロードが感じているだけに過ぎない。だが祖父や父もそう思っているような節はところどころ窺えたのも事実だった。


 誰かに言われたわけではない。

 両親の、ある意味とても純粋で幼い恋がもたらした顛末を聞いた時から、ただ考えていた。


 自分は誰かを好きになってはいけないのだと。