白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「アーネスト殿下にも婚約者がいたが第三王子殿下という立場上、政略的な思惑が絡みすぎている。不貞を働き、子供まで出来たことは決して些末な問題ではないが、マチルダは他国の貴族の娘だ。自国の有力貴族の令嬢との婚約を解消してまで娶るわけにはいかなかった」

 淡々と事実だけが伝えられる。

 それ故に逆に、事態の大きさを連想させた。

「しかし我がグランハイム家の判断だけで、マチルダの腹の子の処遇は決められない。マチルダは産むことを強く望んだのだからなおさらだ。我々にも、せめてその願いくらいは叶えてやりたいという思いもあった」

 クロードの組んだ指に知らず知らずのうちに力がこもった。

 気遣わしげな表情を浮かべた父と目が合う。

 大丈夫だと答える代わりに首を振った。

 隣国の王家が関わっているのなら、確かにできる限り早めに真実を打ち明けたいと思うのは当然だろう。父は間違っていない。


 そして、しっかりしているように見えて子供のクロードがそれを受けて心を揺らすことも普通の反応だった。

「隣国の国王陛下も交えた話し合いの末に、アーネスト殿下とマチルダとの間にあったことは全て伏せられる方向に取り決められた。王族の血を引くことにより発生する王位継承権も当然、放棄することと相成った。それが互いに出来る最大限の譲歩であり、陛下の恩赦でもある」

 おそらく、隣国の王家側としてはマチルダの出産は避けたいものだったに違いない。

 相手が隣国の大貴族だとは言え恩赦の余地を与えられたのは、アーネストが第三王子だからだ。彼が王太子だったなら隣国の王家は冷酷な措置を下していただろう。

 そして父いわく、王太子夫妻に男児が生まれたばかりという状況も良い方向に作用した。

「アーネスト殿下と添い遂げさせることも叶わず、別れた後にマチルダは身重のままグランハイム家に戻った。そうして生まれたのがクロード、君だ。予定通り私の妻が身籠ったように偽装し、グランハイム公爵家の三男として育てられることになった」