白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「しかし相手が家格の同等な公爵家でね。一筋縄では行かなかった。彼らとて公爵家としての矜持がある以上は当然のことだろう。とは言え、私やマチルダの父に当たる当時のグランハイム公爵に深く頭を下げられては、どこかで手打ちにする必要があることも理解はしていた。最終的には王家に仲裁に入ってもらうという異例の事態でようやく、収拾を迎えるに至った」

 だが、と父は声をさらに低くする。

 それで終わったと言い切れない事態があったのだろう。


 十歳のクロードとて、だんだんと状況を察して来る。

 数刻前まで父親だと信じて疑わなかった目の前の人物が伯父である以上、マチルダと恋に落ちた人物が実の父親であることは間違いない。

 ところがクロードはマチルダの子ではなく、グランハイム公爵夫妻の三男として育てられている。つまり、公には出来ない相手なのだ。

「マチルダが隣国に留学していた時期があることも知っているね?」

 父の言葉にクロードは頷き返す。

 マチルダの元を訪ねた際、留学時の出来事を何度か聞いたことがあった。

 それらは時が経っても彼女の心に深く刻み込まれているのだろう。いつだって楽しそうに話し、最後にクロードの目をのぞきこんで寂しげな笑みを浮かべていた。


 今ならマチルダの行動と表情の意味も分かる気がする。

 きっと、家族の誰とも微妙に違うクロードの瞳の色は実の父親譲りの色なのだ。

 だから彼女はクロードの目の中に、添い遂げられなかった恋人の面影を見ていたのだろう。

「隣国の第三王子アーネスト殿下……かの御方が、君の本当の父君だ」

 クロードは目を見開く。

 頭を強く殴られでもしたかのような強い衝撃に、心ごと激しく揺さぶられた。

 まさか隣国の王家の血が流れているなど、一度だって考えたこともない。考える理由がないからだ。

 だが父がこんな嘘をつく必要はもっとなかった。

 クロードがいくら否定したところで覆ることのない事実を、ほとんど無理やりに飲み込んで父を見やる。


 父はクロードの様子を窺いつつ、慎重に言葉を選びながら続けた。