白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 クロードは視線を落とし、膝の上で組んだ両の指を見つめる。

 何も言わず、何と言えばいいのかも分からずに父の次の言葉を待った。

 しばらくの沈黙の後で先程より深く息を吐く音が聞こえた。

 クロードは顔を上げる。目が合った父の顔はすでに公爵家当主のそれに戻っていた。

「余計な時間を取らせてすまないね、クロード」

「――いえ」

 クロードは静かに首を振った。

 正直に言えば、どんな反応をしたらいいのか分からない。

 実の両親がいると知らされたところで、母は親子として触れ合うことのないまま六年前に他界している。父ともきっと、会う機会はない。


 子供心に察していたとは言え、悲観するにはクロードはあまりにも人の優しさに触れすぎていた。この十年の間に目の前の"父親"をはじめ、家族と言う形で過ごして来た人々が実の家族ではないからと言って、それが何だと言うのだろう。自分に関する重大なことであるはずなのに、どこか他人事のように思った。


 クロードの様子に父は一瞬だけ表情を歪める。だがクロードは再び首を振ってみせた。事実を知ることよりもグランハイム公爵家の人々の接し方が同情的なそれに変わる方がずっと、クロードを打ちのめすだろう。

 だからこのまま、できることなら実の息子として接し続けて欲しい。

「クロード、君はやっぱり……」

 父は何かに合点が行ったように独り言ち、苦笑いを浮かべた。もしかしたらクロードの反応は、実の父譲りなのかもしれない。そう思えば腑に落ちた。

「いや、すまない。話を進めようか」

 一度伏せられた目が次に開かれた時、そこには厳しい当主としての色だけが残った。

「こちらとしては、何せ深く探られると痛い腹がある。だから出来る限り穏便に、かつ手早く婚約解消の手続きを終えたい。それが本音だった」

 今度はその話し合いを思い出しているのだろう。妹を偲ぶ時とは違い、さすがに良い思い出ではないらしく眉間にわずかなしわが寄せられた。