でも何も気がついていないふりをした。たとえ偽りのものであろうと、柔らかな笑顔を向けてくれることがとても嬉しかったから。


 まばたきの時間さえ惜しく感じながら庭園の奥へと進めば、色とりどりに咲き誇る花々の向こうにこじんまりとした四阿(あずまや)が見えて来た。


 おそらく昼食はそこで摂ることになるのだろう。働くメイドたちの中にオードリーの姿もあった。

 楽しそうに甲斐甲斐しく働く様にアイリの面影が重なる。アイリはシェイドの仲間――やはりレミリアなのだろう――が丁重に保護してくれると最初に聞いた。その言葉をシェイドが違えるとは思いたくない。だから無事でいてくれると信じるしかなかった。


 オードリーがふいに顔を上げる。

 仕事の邪魔になってしまうかもしれない。そう思ったけれどロゼリエッタはオードリーに見えるよう、日傘の下で大きく手を振った。はにかんだ笑顔で会釈をしてくれるのを見て手を戻し、背中を向ける。

(このお屋敷での暮らしが終わるということは、オードリーともお別れになるのね)

 もう一つの事実も胸を締めつけた。


 ロゼリエッタは家族と離れ、見ず知らずの場所で過ごす今の生活も決して嫌いではなかった。

 冷たい態度でもシェイドが傍にいるし、優しくて温かいオードリーもいる。


 王太子暗殺を企んだ大罪人のはずなのに、取り巻く環境はとてもそうは思えない。

 場所は変わっても、形は変わっても、ロゼリエッタを包む世界は根本的に綺麗で優しいままだった。


 この庭園と、同じように。