白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 散歩と昼食、それから食後のお茶を一緒に出来る。全部を終わらせられるなら、それなりに長い時間を過ごせるだろう。だったらすごく、嬉しい。

 だけど子供扱いされたことはこんな状況でも面白くなかった。いかにもわがままな令嬢のように、つんと澄まして顔を上げる。イメージは以前に読んだ、猫のように気まぐれで、それでいて魅力的な恋愛小説のヒロインだ。

「絵本だなんて子供扱いなさらないで。どうせなら王都で人気の恋愛小説にして下さいませ」

 シェイドは目を細め、申し訳ありませんと謝罪をした。その表情も声もどこか楽しそうな印象を受けるのはロゼリエッタの思い過ごしだろうか。真意を知りたい気持ちを含んだ目を奪われていると、彼は言い訳のように言葉を紡いだ。

「あいにくとこの屋敷には、年頃のご令嬢が好まれるような物語を記した本はないのです」

「でも私だって、もう絵本に瞳を輝かせる年齢ではありません」

「それは大変失礼致しました、レディ・ロゼリエッタ」

 シェイドの言葉に正体の知れない小さな引っ掛かりを覚えはしたものの、機嫌なんか全然悪くしていない。わざと「じゃあ仕方ないわね」と言わんばかりに表情を和らげた。


 他愛のないやりとりが嬉しくて、でも泣きたくなる。


 わがままな言動を受け入れてくれるのはクロードではなくてシェイドだからだ。

 彼の中に、ロゼリエッタを巻き込んでしまった負い目があるから大切に扱われる。

(それでも、いいの。何も残らないよりは、ずっと)

 涙で声が詰まる前に自分も準備をすると告げてダイニングを出た。