白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「でも、シェイド様は私やアイリたちを助けて下さいました。私一人ではどうすることもできなかったと思います。だから未熟だなんて仰らないで下さい」

 彼が欲しいのはレミリアからの謝辞で、ロゼリエッタの言葉なんていらないかもしれない。それでもお礼は今のロゼリエッタが伝えられる、ありのままの感情を含んだ数少ない言葉だ。


 シェイドは仮面の奥の目を見開き、それから逆に小さく「ありがとうございます」と口にした。心のうちにあるもの全てを吐き出すかのように息をつき、顔を上げる。

「すみません。せっかく足を運んで下さったのに」

「いいえ。私の方こそ、ずっとお礼を言えずにごめんなさい」

 お互いに謝罪して、ふいに笑い合う。

 ロゼリエッタの心もまた軽くなっていた。

「シェイド様がまだしばらく鍛錬を続けられるのなら、私もここで見ていてもいいですか?」

「あなたが退屈でないのなら」

「では終わるまでずっといます」

 シェイドは立ち上がり、再びホールの中央へと歩いた。腰に下げた剣を外して静かに構える。

 ロゼリエッタはその一挙手一投足から目を逸らさず、心に焼き付けるように見つめた。


 ロゼリエッタが何者かに意図的に駒として選ばれているのに、シェイドはあきらかに火事の対岸に置こうとしている。

 元よりロゼリエッタが力になれることなど何もない。だからその判断は何も間違ってはいないのだろう。


 知らない事件が知らない場所で知らない間に終わる。

 きっとシェイドは――クロードは徹底してそうしたかったのだと今なら分かる。それがひどく中途半端にロゼリエッタの前に形を見せ、やむを得ず今の状況になっているのだと思う。