レミリアが羨ましい。彼女はどれだけ、ロゼリエッタが知らないクロードを知っているのだろう。

 クロードはどれだけ、ロゼリエッタには見せない表情をレミリアには見せているのだろう。


 だけどロゼリエッタは美しいバラにはなれない。

 せっかく両親が花々の女王たる"バラ(ロゼ)"をその名に冠してくれていても、ロゼリエッタは気高く咲き誇るバラとは縁遠かった。彼女を知る者は皆が等しく、慎ましく咲く他の花の名を挙げるだろう。

 でも、それでも構わなかった。たとえ小さな白詰草であったとしても、その花の存在を受け入れてくれる人がいる。ただ、そんな人々の中に愛する婚約者がいない。それだけだ。

 それにレミリアは隣国の王太子マーガスと婚約している。成人を迎える半年後に隣国へ輿入れすることも、彼女が幼い頃から決められていた。

 だからクロードがどれだけ強くレミリアを想ったところで、ロゼリエッタのそれと同じように決して報われることはない。

 その事実だけがロゼリエッタをかろうじて支えていた。

「ロゼ? 来たばかりだし、少し座ろうか」

「まあ、それは気が利かないことをしてしまったわ」

 名を呼ばれたことで畏れ多くも王女相手に値踏みの目を向けている自分に気がつき、ロゼリエッタは自己嫌悪の念に駆られて俯いた。


 だから、クロードはレミリアに心惹かれるのだ。

 好きな人の幸せを心から願うことの出来ない醜いロゼリエッタを、好きになってもらえるはずがない。