白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「あの、シェイド様」

「何でしょうか」

 "新しいお願いごと"をしようとしているのは多分ばれている。シェイドはどこか諦めたような苦笑いを浮かべた。

 でも屋敷の中でなら自由にしていいという約束をしたのだ。ロゼリエッタは負けずにしっかりと顔を上げた。

「オードリーに、シェイド様は普段はお仕事の他に剣の鍛錬もなさっていると聞きました。良かったら、少しでも拝見させては下さいませんか」

「ご覧になっても、あまり楽しいものではないと思いますが」

 シェイドは断らないまでも、やんわりと距離を置いてロゼリエッタから引き下がらせようとする。

 ロゼリエッタはもちろん、引き下がったりなんかしない。顔を背けずに言葉を続けた。

「退屈だと思ったらすぐ部屋に戻ります。先程キッチンをお借りしたように、シェイド様のお邪魔になるようなことも絶対にしませんから」

 必死に懇願するとシェイドは肩で大きく溜め息をついた。


 折れて譲歩してくれたのだと思った。

 もっと早く自分の気持ちやお願いごとを伝えていたら、どうなっていたのだろう。

 そう考えて、自分の中でかぶりを振った。


 ――それでもきっと、結末は変わらなかったに違いない。

 だって彼が想う人は他にいる。

「ロゼリエッタ嬢?」

 沈んだ表情をしてしまっていたようでシェイドが心配そうに声をかけた。

 体調が回復していないと誤解されたくはない。大丈夫です、と答えてシェイドを見つめる。

「――明日のこれくらいの時間に、オードリーに案内してもらって来て下さい」

 明日も一緒にいてくれる。

 今のロゼリエッタに、これ以上望めることなんてなかった。