白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 シェイドの言葉に耳まで真っ赤に染まる。

 ロゼリエッタは生地を混ぜることと、大きさの違う金属製のハート型でくり抜くこと、マーマレードを挟むことを手伝った。

 でも、型で抜けば良いだけと思っていた作業は意外と難しく、端の方が上手く抜けなくてせっかくの形を崩してしまっていた。だから半分近くのクッキーが、綺麗なハート型ではなく少し歪なものになっている。

「見た目が悪いだけで味は……、問題ないと、思います。オードリーがしっかりと材料を計ってくれましたから」

 出来立ては熱々のジャムで口の中をやけどをしてしまうからと、ロゼリエッタも味見はしていない。

 基本的なことは全てオードリーがやってくれたから大丈夫なはずだ。形だって、ひどい焼きムラができてしまうほど崩れてはいない。

「大丈夫、おいしいです」

 一口食べ、シェイドは注意して見ればそうと分かる程度に表情を緩めた。

 お茶会に誘ったのも、クッキーを作ったのもロゼリエッタなのに、シェイドに味見をさせるような順番になってしまった。

 申し訳なく思いながら、イチゴジャムを挟んだクッキーを手に取って食べる。甘さを控えたサクサクのクッキーと、煮詰めたことでより濃厚になったジャムの組み合わせがとてもおいしい。


 ああ、それよりも。


 たまにクロードが手土産に、グランハイム公爵家に勤めるお菓子職人が焼いたクッキーを持って来てくれたことがあった。

 そのクッキーと、味も食感もとても良く似ている気がする。

「――おいしい」

 クッキーの味に大きな違いはないのかもしれない。

 だけどカルヴァネス侯爵家とグランハイム公爵家で異なる職人が焼くクッキーは、異なるものだ。だったら、懐かしさを感じる味と同じだと思いたい。


 そしてその懐かしさは、ロゼリエッタに新しい勇気を与えてくれた。