「元々、屋敷内では自由に行動して良いとお伝えしておりますし、あなたの体調さえ問題ないのなら反対する理由もありません。ですが材料は揃っているのですか?」

「私は良く分からないのですが、必要なものは全て揃っているようです」

「そうですか。オードリーがついているなら大丈夫だとは思いますが、怪我などなさったりしませんよう気をつけて下さい」

 どうやら使用許可は無事にもらえたらしい。

 ロゼリエッタはほっとして、よりいっそうと勇気を奮い立たせた。

「クッキーが焼けたら、一緒に召し上がって下さいませんか」

「一緒に?」

 戸惑った声にロゼリエッタは俯くように頷く。


 沈黙はいつだって痛くて重い。無意識のうちに祈るように両手の指を胸の前で組んだ。

 迷うならいっそ、早く断って欲しい。

 断って欲しくなんかないのに、胸が苦しくて真逆のことを願ってしまう。

「約束は三時くらいに、ここでよろしいですか?」

 弾かれたように顔を上げる。

 シェイドと目が合って、すぐにさりげなく逸らされてしまったけれど、それは否定的な感情からではなさそうだった。

「は、はい!」

 思わず大きな声で返事をしてしまい、慌てて口を(つぐ)んだ。


 恥ずかしい。

 でもそれ以上にずっとずっと、嬉しい。

 いつものように会話のない朝食も、その後の昼食も、いつもよりずっとおいしく感じた。




 午後の柔らかな日差しが降り注ぐ窓際に、小さな白いティーテーブルと椅子のセットが置かれている。