利用許可はロゼリエッタが取りたいと、オードリーと相談してあった。

 些細なことでも話をするきっかけが欲しかったのだ。

「キッチンで何かなさりたいことがあるのですか?」

 疑問は当然のことだろう。

 これまでロゼリエッタはおとなしくしていた。それが急にキッチンを借して欲しいだなんて(いぶか)しまれても仕方ない。


 ロゼリエッタが屋敷内で行動を起こすこと自体が快く思われてはいないようで、決意が揺らぐ。

 やっぱり、何もしない方が良いのだ。

 みるみる(しぼ)んで行く自分の心の弱さに何度目か分からない幻滅をしながら、ロゼリエッタは首を振った。何でもないと引き下がろうとした時、シェイドが慌てたように言葉を紡ぐ。

「ああいえ、その。責めていたり、何もしてはいけないと言いたいわけではないのです。ただあの――君がはっきりと意思表示をするのは初めてだから、戸惑ってしまって。すみません、傷つけたりするつもりはないのです」

 仮面越しに見える目は真摯な色を浮かべている。

 彼もまた自分にできる範囲で歩み寄ろうとしてくれているのだと、ロゼリエッタは再び――けれど先程の後ろ向きな気持ちを払うように首を振った。

「オードリーと昨日、約束をしたのです。熱も下がって元気になったら一緒にクッキーを作りましょうって」

「クッキーを?」

「もちろん、キッチンで働く方々の邪魔になるようなことはしません。少しの材料と、端のスペースだけで構いませんから」

「――分かりました」

 ようやくシェイドは頷いた。