白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 しばらくして、オードリーが戻って来たのだろう。ドアが開き、ひんやりとした空気が流れ込んで頬を撫でた。もう目も開けられず、ただ人の動く気配だけを感じていると、ベッドの傍に人が立つのが分かった。


 違和感を覚え、わずかに首を傾げる。

 足音が二つ聞こえた気がした。

 一つは間違いなくオードリーのものだろう。

 ならば、もう一つの足音は――まさか。

「お待たせして申し訳ありません。飲み水もお持ちしました。起き上がることは出来ますか?」

 ぼんやりと違和感の正体を探っていると思考を遮るようにオードリーが尋ねた。ロゼリエッタは自分の体力を察し、力なく首を振る。

「分かりました。では少し失礼致します」

 少しの間を置いて背中に手が差し込まれた。途中で宙ぶらりんになっていた違和感が再びよぎる。

 オードリーの手にしてはずいぶん大きい。支えてくれる腕も、太くはないけれど逞しかった。


 半ば無理やりこじ開けるように目を開く。必死に顔を巡らせ、腕の先へと視線を手繰った。どうしたら良いか迷っているのだろうか。軽く噛みしめる口元が見え、さらに顔を上げる。さらりと流れる黒髪と、仮面で表情を覆った緑色の目がそこにあった。


 シェイドには言わないでと言ったのに、やはりそういうわけにはいかなかったようだ。

 またロゼリエッタの思い通りに事は運ばなかった。

 だけど、今はそれが少し嬉しい。