彼女に気がついたから反応が鈍くなったに違いない。

 ロゼリエッタは無意識のうちに繋ぐ指に力を込めた。それを受け、クロードの指先がわずかに動く。さりげなさを装って離すつもりでいたのにできなくなった。そう言われている気がしてしまう。

(――あの方は)

 女性の進行方向にいる人々が立ち塞がってしまうことのないよう道を開けるから、みるみる彼女とロゼリエッタたちとの距離が縮まって行く。

 何も言わずとも、貴族たちが自主的に道を譲る相手などそう多くはない。そして彼女はそんな数少ない人物に与する一人だ。


 この国の第一王女レミリア。

 クロードと同じ年で、彼の主でもある。


 ストロベリーブロンドの髪を緩く巻き、目にも鮮やかな真紅のドレスに身を包む姿はまさに大輪のバラを思わせた。持って生まれた王女としての自信と誇りとが、よりいっそうの輝きを与えている。

 レミリアはロゼリエッタの前に立ち、涼やかな瞳に親しみをこめた笑みを浮かべた。

「久し振りね、ロゼ。来てくれてありがとう」

「お招き下さいましてありがとうございます、レミリア王女殿下」

 淑女の礼をして、ロゼリエッタも笑みを返す。

 はつらつと健康的な美しさに満ちたレミリアは、同性のロゼリエッタから見ても魅力的な存在だった。彼女のようになれたらと何度思ったか分からないほどだ。