「ロゼ……不安な時に助けてあげられなくて、すまない」

 ダヴィッドが痛ましそうに顔を歪めて言葉を紡ぐ。

 ロゼリエッタは首を振った。

「ダヴィッド様には迷惑ばかりかけて本当にごめんなさい」

 それは心から思っていることだ。

 本当の意味で無理やり舞台に上げられているのはロゼリエッタじゃない。ダヴィッドは現状に対して怒る資格があった。

「迷惑なんて一度もかけられてないから、そこはどうでもいいんだ。俺に出来ることがあるなら、いつだって遠慮なく頼ってくれていい。――婚約者なのだから」

「ありがとうございます、ダヴィッド様」

 そしてロゼリエッタはダヴィッドの優しさに甘えている。

 心の奥に忘れられない面影を抱きながら、婚約者という立場を自分に都合良く利用していた。


 最低だ。

 我ながら本当に最低の仕打ちをしていると思う。

 ダヴィッドと結婚して幸せになる。

 そう決めたのに、なおもまだ揺らぐのだ。

 相手がマーガスではないだけで、ロゼリエッタが不誠実な令嬢である事実には何ら変わりない。

「大丈夫だよ、ロゼ。全部分かってる」

 何を、とは聞かなかった。いや……聞けなかった。

 ロゼリエッタは涙を堪え切れずに俯き、両手で顔を覆う。


 いつだってその場限りの反省をするだけで何もできてはいない。

 クロードを忘れることも、誰かの前で二度と泣かないことも。自分で心に決めたことでさえ貫き通すことができずにいる。


 セリフが与えられていないのなら自ら探せばいい。その最低限の努力だって、結局はすぐに投げ出した。