ロゼリエッタは思わずシェイドに視線を向けそうになり、思い留まった。

 扉のすぐ脇に立つシェイドはロゼリエッタたちを真横から眺める位置にいる。二人のどちらかに何か不審な動きがあったとしても死角にはならない場所だ。

 視界の隅に時折入る姿に心がざわめく。良い感情も悪い感情もそこにあって、複雑に絡み合っていた。


 ロゼリエッタはかすかに首を振り、ダヴィッドの言葉に意識を戻す。

 自分が聞かされている話とは内容が微妙に違う。もっとも、他国の王太子が自国――ましてや王城内で――毒殺される危機にあったなどと、国同士の関係に軋轢を生じさせかねない。そんな不名誉な騒動は、たとえ事実だとしても公表はできないだろうし、表向きはそこで誤魔化すしかないのかもしれなかった。

「もちろん王太子殿下はご無事だけどね。貴族たちの間で騒ぎになりつつあるみたいだ」

 ここで過ごすようになって、二週間近くになろうとしている。だけどそんな短い間で大きな変化があるでもなく、シェイドも事情など何も話してはくれない。だから未だに分からないことばかりだった。


 いつだってそうだ。

 ロゼリエッタは舞台上に引きずり出されながらも、誰も彼女に与えられているはずのセリフを教えてはくれない。

 それとも演者だと思っているのはロゼリエッタだけで、周りからは小道具の一つでしかないと思われているのだろうか。でもそれならば、この扱いにも納得が行く。


 主役はおろか、脇役ですらない。

 ただそこに存在すればいいだけの人形。それがロゼリエッタに与えられた役目だった。一言でもセリフを得て物語に一場面でも関与したいだなんて、不相応な高望みなのだ。