ここが王都の中だとロゼリエッタとて察してはいた。

 シェイドの母親がこの国の生まれで、生前に住んでいたこともあるという屋敷なのだ。何より国境を越えるなど、いかに貴族とて――貴族だからこそ、およそ簡単なことではない。


 問題は王都のどの辺りなのかが全く分からないことだ。そして"どこに"いるのかという根本的で重要な問題は、ロゼリエッタの手紙には書かれなかった。

 でもシェイドの背後にはレミリアがいる。それはアイリたちがすぐにレミリアに保護されたとの報告から窺い知れた。きっとロゼリエッタの周囲の人々を納得させる為だけに、信憑性のある場所をでっち上げたのだろう。


 けれど王都からは出られない状態になっているというのは思いもよらなかった。ロゼリエッタは意表を突かれると同時に、違和感を覚える。


 ロゼリエッタにマーガス暗殺の容疑がかけられていることを知らないのだろうか。

 でも知っているのなら、いかにダヴィッドとてそれなりに態度が硬化するに違いない。それがその気配すらないというのであれば、少なくともダヴィッドの耳には入っていないと思っても良いのだろうか。

「マーガス王太子の件とは何でしょうか」

 ダヴィッドがどれだけ知っているのかの確認も込めて尋ねる。するとダヴィッドは驚いたような表情を一瞬見せ、何かに思い当たったかのように軽く頷いた。

「ああ、ロゼはここにいるから知らないんだね。と言っても俺も詳しく知っているわけじゃないけど――王太子殿下の元に、命を狙うことを予告する文書が届けられたみたいだよ。それで今は王都の外へ繋がる道は全て閉鎖されてるんだ」

「脅迫文が届けられたのですか?」

「そういうことになるね」