マーガスが放つ言葉の矢は次々とシェイドの心を射抜く。


 ロゼリエッタは小さくて可愛くて病気がちで――だが、会う度にどんどん綺麗になって行った。

 うっすらとしたものではあるが化粧も覚え、ふとした弾みにどきりとさせる表情を見せるようになった。


 無邪気な少女と貞淑な女性がロゼリエッタの中に同時に存在し、どう接したら良いのか分からなくなっていた。自分の知るロゼリエッタと自分の知らないロゼリエッタに振り回され、だがそれも悪くはなかった。


 どんな彼女でも、愛おしいことに変わりはなかったから。

「――どちらにしろ」

 カップに残っていた紅茶を飲み欲し、マーガスは表情を和らげた。おかわりが必要か尋ねれば、今度は冷たい紅茶が飲みたいと返って来る。

 形式的に聞いただけのつもりが、まだ色々と話したいことがあるとは微塵も思ってはおらずに驚きを隠せなかった。だが本人が欲しいと言った以上、シェイドは呼び鈴を鳴らした。


 しばらくして、グランハイム公爵家に長年仕える初老の執事がやって来る。マーガスに冷たい紅茶を、と頼めば手際良く淹れ、そのまま部屋を後にした。


 紅茶を頼んでいる間は止まっていた時間が、執事の退室と共に緩やかに流れはじめる。むしろシェイドにとって、頭を冷やす良い時間になったのではないか。マーガスがそれを目的としていたのかは分からないが。