確かにこのままでは、クロードに恥をかかせてしまうだろう。ロゼリエッタは意を決し、大きな掌に自分の指先を重ね合わせた。

 すると手袋越しに指が触れた瞬間、周りの声は耳に入って来なくなった。

 人々が急にお喋りをやめたなどということはなく、何かを話しているのは口の動きで分かる。けれど、音そのものが遮断されていた。


 ああ、これは、まるで。

「魔法みたい」

「え?」

 クロードが訝しげに形の良い眉をひそめるのを見て、思ったことがそのまま口に出ていたことに気がつく。

 でも、言ってしまったものはしょうがない。開き直ったロゼリエッタは自分を奮い立たせるよう微笑むと、夢の中にいるような気持ちで言葉を続けた。

「クロード様が手を繋いで下さったら、まるで魔法がかかったみたいに周りの方々の声が聞こえなくなりました」

「声が聞こえなくなったのは君にとって良いこと?」

「はい。クロード様の声だけがとても良く聞こえます」

「――そう、か」

 何か失言をしてしまっただろうか。

 クロードの反応に良からぬものを感じたロゼリエッタは、子供じみた言葉はやっぱり言うべきではなかったと後悔した。そこへ一際人目を引く美しい女性が二人の方へ歩いて来るのを見て、さらに心を冷やして行く。