「ですが、宛て名には殿下の名が確かに記されていましたよね」

「ああ。彼女も宛て名は書かず、印璽を押しただけの状態で渡したらしい」

「すると宛て名を書いたのは別人でしょうか」

 マーガスは軽く頷き、肩をすくませる。

「おそらくね。本当は誰が書いたのか、は重要なことじゃない。誰が出したのか、それさえ分かるなら後は何でも良かったんだろう。周到なんだか杜撰なんだか、よく分からなくなるな」

「――そうですね」

 シェイドは顎に指を当て、情報をまとめるべく頭の中で整理をはじめた。

 少なくとも、滞在している間にマーガスを亡き者にすることが大きな目的ではないようだ。王弟派に属している以上、最大の目的ではあるのだろうが、今この場に関してはさして重要視をしていないように思える。

 王弟派も一枚岩ではない。そういうことなのだろうか。


 どちらにしろ本人に聞かなければ真意は分からないことだ。

 シェイドは一度考えを保留にし、また疑問を投げかける。

「ロゼリエッタ嬢を乗せた馬車はカルヴァネス侯爵の領地ではなく、どこへ向かわせようとしていたのです?」

「ああ、それは」

 紅茶の注がれたカップに口をつけ、マーガスは何とも言えない表情を浮かべた。

 らしくない表情は、巻き込む形になったロゼリエッタへの同情や懺悔が含まれているのかもしれない。どこかやるせない雰囲気があった。