レミリアに仕えるクロードは有力貴族の三男であり、世間知らずな三歳年下の婚約者がいる。ロゼリエッタが利用されたのは、おそらくそういうことに違いない。

 何も知らずにいつもと変わりなく過ごしていたその裏で、マーガスやレミリアを陥れる為の駒に選ばれていた。これほど便利な存在がなかなかいないのは事実だからだ。

「――向こうが用意した証拠は、印璽の残る手紙だけではありません。二重三重に手を回しているはずです」

 心が、魂ごと凍って行くのが分かる。


 マーガスの敵対者にとって都合の良い存在は、マーガスやレミリア――強いては彼女を主とするクロードにとってひどく都合の悪い存在だ。

 だからクロードは、本人の意思に拘わらずロゼリエッタが利用されてレミリアの立場を悪くする前に切り捨てた。


 そういう、ことなのか。

「大丈夫です」

 ロゼリエッタに向け、シェイドは強い口調で告げた。

「この先何があったとして、あなたは僕が守る。その為だけに――僕は今、ここにいるのです」

 嬉しいはずの言葉なのに悲しくて涙が潤む。


 だってその言葉は"クロード・グランハイム"から聞きたかった。

 "シェイド"は、そういう役目を与えられたから、守ると言ってくれているだけなのだろう。

「――分かり、ました」

 もう聞きたくない。


 ロゼリエッタは涙を見せないように俯き、話を切り上げるしかできなかった。