白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

(どうしてなの)

 まさか、これもアイリが?


 他にもまだ裏切りがあっただなんて信じたくない。でもロゼリエッタの愛用する印璽(いんじ)を持ち出せるのは、アイリしかいないのではないか。いや、デザインを知っていたら複製することだって出来るかもしれない。――だけど、複製なんて手間やお金のかかる手段を取るだろうか。


 次々と湧き上がる疑問を否定し、便箋へと目を落とす。


 "あなたをずっとお慕いしております。この恋が報われずとも、せめて金曜日に二人だけの逢瀬の願いを叶えてはいただけませんか"


 ロゼリエッタは身体が冷えて行くのを感じていた。


 今だって名目上のものではあるけれど、ロゼリエッタはクロードと婚約中だ。ましてや自国の王女の婚約者でもある隣国の王太子に懸想するわけがない。

 でもこれでは、ロゼリエッタがひどく不誠実でだらしのない令嬢だと言っているも同然だ。

「それで、マーガス殿下は……」

 あの理知的な目をした王太子がこんな文面を信じるはずがない。

 分かっていても、恐ろしかった。

 マーガスやレミリアがロゼリエッタからの手紙ではないと思ったって、証明できるものがない。


 筆跡は代筆を頼まれたからだと言い訳が立つ。

 けれど印璽は誤魔化しようがなかった。

 ロゼリエッタが実際に何度かそれを使って友人たちに手紙を出した過去があるのだ。彼女たちは、問われればありのまま素直に本物だと証言するだろう。それだけでロゼリエッタが差出人だという、紛れもない証拠になる。