白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 そもそもロゼリエッタが毒を盛れるような距離でマーガスに接触したことなど一度だってない。先週の夜会で遠目に見たのが最初で最後だ。ほんの短い間に何をどうしたら、自国の王女の婚約者でもある隣国の王太子に一介の侯爵家令嬢が近寄れるというのか。


 他国の王太子を招いた状態で人払いをするほど警備は甘くないし、マーガスだって身元が確かな侍女が淹れたお茶以外を飲むような警戒心が薄い人物ではないだろうに。

「事件の起こる数日前、マーガス殿下宛てに差出人の署名のない手紙が届いています」

 そう言ってシェイドは一通の手紙を差し出す。

 これが、実際に送られて来た手紙なのだろう。上部がすっぱりと切り開かれており、とうに中身を改めた後だと物語っている。


 ロゼリエッタにとって嬉しくないことが書かれていると察しがつく。震える手で受け取った。封筒の表には女性の筆跡と思しき文字で"マーガス王太子殿下へ"と書かれている。だけどもちろん、ロゼリエッタの文字ではない。

 裏返して、封筒を取り落としそうになる。


 可愛らしい桃色の封蝋に刻まれた白詰草。それは、ロゼリエッタが使用しているデザインと同じだったからだ。

 この世に二つとないものであることは自分がよく知っている。


 クロードが、お守りのお礼にとプレゼントしてくれたものなのだから。