白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 三歳年上のクロードは、けれどその年齢差以上に大人びて見える。

 それは、すでに彼が近衛騎士として大人に混ざっていることもあるだろう。

 何よりも彼はずっと、病弱で部屋にこもりがちのロゼリエッタとは比べるまでもないほどに広い世界を見て来ていた。


 本来なら住む世界が違う人なのだと感じることも、一度や二度ではない。

 夜会に出た時だってそうだ。人目のある場所では特に、彼が遠い存在に思えた。


 でもクロードがロゼリエッタを婚約者にしているのは、ロゼリエッタが彼にとって"とても都合の良い存在"だからだ。

 身体が弱いから、人前に出る機会は少ない。エスコートをしなくても済む。だからクロードは婚約者がいても、自分の時間を好きに持ち続けることができる。それは他の令嬢と婚約していたら叶わないことだ。

「ロゼ、どこか具合が悪いのかい?」

 浮かない表情をしてしまっていたのか、クロードが心配そうに尋ねる。ロゼリエッタはやんわりと首を振り、鈍く軋む胸の内を悟られないよう笑いかけた。

「いいえ。でも久し振りに王女殿下とお会い出来るので、少し緊張しているのかもしれません」

「それならいいのだけど。レミリア殿下も、君に会えると楽しみにしていたよ」

「――光栄です」

 クロードの口から出た他の女性の名が、ほんの一瞬だけロゼリエッタの心に棘となって刺さる。痛みに思わず顔をしかめかけ、寸でのところで踏み止まった。


 緊張していると言ったことで、笑みの形が多少ぎこちなくなっても上手く誤魔化せたと思う。


 大丈夫。

 多くを望んではいない。


 ――だから、どうか。


 今日も泣かずに、最後まで笑えますように。