白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 グランハイム公爵家の三男であるクロードとは、三歳年上の兄の友人として知り合った。

 そして縁あってロゼリエッタと婚約関係を結ぶことになり――ロゼリエッタの自己評価を低くする大きな要因でもある。

「ロゼ、顔を上げてよく見せてごらん」

 優しく促されるままにロゼリエッタは顔を上げた。

 クロードの背は、自分より頭一つ分ほど高い。だからお互いがそう意識しない限り、視線が重なることは決してなかった。


 若干青みがかった緑色の目に自分だけが映っている。

 でも本当にその目が映しているのはロゼリエッタではない。


 他の、女性だ。

「本当に、僕のお姫様は今日も世界でいちばん可愛いね」

 そう言って、結い上げた髪を崩さないよう、クロードは優しくロゼリエッタの髪を撫でる。


 可愛いと思ってくれていること自体は、おそらく本心なのだろう。

 でも、その根底にある感情は異性に対するものではない。婚約者という肩書きではあっても、彼にとってロゼリエッタはいつまでも"放っておけない病弱な妹"と同等の存在に違いなかった。

「ありがとうございます。クロード様も、いつも素敵です」

「お姫様のお眼鏡に適ったなら嬉しいよ」

 婚約者が自分へ抱く想いが恋ではないと知っていても、ロゼリエッタ自身をクロードに褒められれば嬉しい。それだけで心は簡単に舞い上がってしまう。はにかんだ笑顔を浮かべながら淑女らしく礼をすると、微笑ましげに目が細められた。