言い淀むロゼリエッタの言葉を、騎士はやはり何の感情も見せずに遮った。

 ロゼリエッタの瞳に涙が潤む。今さら自分の扱いなんてどうだっていい。頑なに動かずにいると騎士は困ったように再び息をついた。

「彼女たちの身は、後から来た僕の仲間が丁重に保護する手筈となっています。だからあなたが心を砕く必要はありません」

「信用など、できるはずが」

「それでも彼女たちの命が心配ならば、信用していただく他ありません。さあ、早く乗って下さい。でなければ彼女たちを危険に晒す時間が長くなります」

 確かに、ここでロゼリエッタがぐずぐずしたところで何の解決にもならない。

 アイリたちの身は主である自分が守ると決めたばかりではないか。

「本当に……アイリたちを助けて下さるのですか」

「お約束致します」

 結局、彼の言葉を信じるしかない。

 ロゼリエッタは小さな拳を固く握りしめた。それから、一人立ち尽くすアイリに目を向ける。

 微笑むアイリは頷き、再び騎士へと頭を下げた。

「――アイリ」

 ロゼリエッタは声を振り絞った。


 裏切られたかもしれないのに彼女を疑いきれないのは、きっと愚かなことだろう。

 それでも良かった。アイリはロゼリエッタにとって大切な人だ。

「私、必ず、またアイリに会えると信じてるから。私の侍女は、ずっと――アイリしかいないの」

 言葉だけでなく想いも届いただろうか。

 両手で顔を覆ったアイリはその場に崩れ落ちる。肩を震わせながら、何度も頷いているのが見えた。


 また会える。

 否――また会えるように行動するのだ。大切な人を失って泣くのは一度だけでいい。


 瞳に強い決意を湛え、ロゼリエッタは騎士の手を借りて馬車に乗り込む。

 その時、後方に騎乗した騎士と三台の馬車が見えた。遠目でも堅牢に舗装された馬車は、あきらかに軍用のものだ。そして先頭を走る馬車には国旗が掲げられ、勇ましく風にたなびいている。

(大丈夫。また、会える)

 もうアイリの方は、見なかった。