「本当にロゼリエッタ嬢を罪人として捕らえたいのなら、もっと人員を割いて確実に捕らえることでしょう。でもそうしなかったのは、向こうも弾劾に至るには材料がまだ足りない――あるいは、こちらの出方を窺っているか。どちらかだと我々は考えています」

「そう――ですね。私の知る情報などお役に立つか分かりませんが、お話できる範囲でご協力させていただきます」

 アイリが決意を固めた表情を見せるのと同時に、蹄の音が近づいて来る。

 どきりとして視線をむければ、ロゼリエッタたちが乗っていた馬車より二回りほども小さい馬車がこちらへ向けて駆けて来ていた。

 今度こそ、新たな追手かもしれない。

「ご心配なさらずとも大丈夫です。彼は敵ではありません」

 ロゼリエッタを安心させる為に騎士が告げる。それを裏づけるよう、二頭の葦毛の馬から伸びた手綱を握ったまま、御者がロゼリエッタに軽く頭を下げて騎士へと声をかけた。

「お迎えが遅くなり申し訳ありません」

「いや。手筈通り、僕たちが乗ったらすぐに走らせて欲しい」

「畏まりました」

 当然のことながら、この後の行動はすでに決まっているらしい。御者と短く言葉を交わし、騎士は迎えに来たという馬車のドアを開けた。

「ここからは僕があなたを護衛致します。お乗り下さい」

 一体どこへ連れて行かれようとしているのか。ロゼリエッタは足がすくんでしまって動けなかった。


 あの衛兵よりは信用の置ける相手だと思う。だけどロゼリエッタの望まぬ場所に連れて行かれる事実に関しては、おそらくは同じだ。


 騎士が小さな溜め息を吐くのが聞こえた。

 反抗的な態度だと怒らせただろうか。今は素直に言うことに従った方が安全だと頭では分かっている。それでも分かってはいても、足を踏み出す勇気がどうしても出せない。

「ロゼリエッタ嬢」

「でも、アイリたちが」

「荷物のように放り込まれたいと仰るのでしたら構いません」