白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 でも次はその力が自分に(ふる)われるかもしれない。


 いや――間違いなくそうなのだろう。

 ならば今度こそ、アイリたちの為に上手く立ち回らなければいけない。


 だけど、そう分かってはいても、恐怖に震える身体は誤魔化しようもなかった。アイリの身体の温かさだけを拠り所に、ロゼリエッタはおそるおそる顔を上げる。


 揺れる若草色の大きな目が、驚きのあまりさらに大きく見開かれた。

 そこにいたのは仮面をつけた騎士だった。

「あなたは……」

 ロゼリエッタは呆然と目の前の騎士を見つめた。

 どうして彼がこんな場所にいるのだろう。偶然とはとても思えなくて探るような目を向ける。だけど視線がぶつかりそうになると反射的に俯いた。

「お嬢様。いつまでもその体勢でいらしたら、お召し物が汚れてしまいます」

 アイリの手が背中に触れる。優しく促され、ゆっくりと立ち上がった。

 まだ顔を上げられないでいると、今度は騎士のいる方向へ背中を押された。その腕の中に収まると同時にアイリの意図が分からなくて振り返った。


 アイリは穏やかな笑みを浮かべていた。ロゼリエッタを一瞥し、それから騎士に向けて深々と頭を下げる。

「お嬢様をよろしくお願いします」

「やめてアイリ、そんな言い方をしないで!」

 まるで永遠の別れのようでロゼリエッタは悲鳴にも似た声を上げた。


 アイリだけはずっと一緒にいてくれる。

 そう思っていた。

 でも結局、アイリさえロゼリエッタを置いて行ってしまうのか。

「じきに僕らの仲間がやって来ます。その時に理由をお話ししていただけますね?」

 騎士の確認にアイリはしっかりと頷いた。

 それから、いくぶんか色を取り戻した顔で騎士を見やる。

あの方(・・・)は、あなた方がお嬢様を助けに来られることも予測していらっしゃると思います。だから――手練れの者とは言え、一人だけを差し向けて」

 ――あの方?


 アイリがロゼリエッタの身柄に関する何らかの約束をした、衛兵の雇い主のことだろうか。


 誰なのか知りたい。

 だけど今はロゼリエッタが口を挟める雰囲気ではなくて、押し黙るしかなかった。

 ある程度の事情を分かっているらしい騎士もまた、頷いてアイリの言葉を肯定した。