(龍になりたい…)

そう思ったのは、自分が来たこの家の人間の男の子が、小さな絵を見せて話してくれたのを聞いた時からだ。


「カッコいいだろ!これはね、龍のカードだよ!お前にも見せてあげるっ!」

この家の男の子は、金魚である自分にも話しかけてくれる。

「龍はね、鯉って魚がなれるんだって、ばあちゃんが言ってた!」

「お話の中、『伝説』の話だよ。」

この家のお母さんがそれを聞いて笑う。

なるほど、カッコいい、っていうのか。
この『龍』というのは、空を飛んでいる。水が吹き上がっているということは、水にも入れるのか。

空…この自分の、こっち側から少し見える窓の外…この青空を、コイツは飛べるんだ。うらやましい。
でも、自分は『鯉』じゃない。
大きくなっても、金魚は金魚。


「お前も家族だからね!」

「見てるだけで少し気が紛れるよ。」

この家の家族はそう言ってくれる。でも、自分も他に何か役に立つかもしれない…
これだけ大きければ、他にも何かの役に…

「キン、エサだよ〜」

とりあえず、ありがたくエサを食べた。

でも、もしかしたら『鯉』じゃなくてもなれるのか…
いつか願いが叶うかもしれない。

それから毎日、小さな水槽を泳ぎ回りながら強く願った。

「いつか自分も龍になりたい…!」

「他にも自分に何か出来るなら、龍に…!」



長い月日が流れた。
いつからか、片目が見えなくなった。
それでも男の子は変わらず自分に話しかけ、家族でエサをくれる。


変わらず過ごしたある夜、苦しさを感じた。
外はまだ暗いらしい。あの子が起きるまではまだ時間があるだろう。

自分は死を感じた。もう自分は…。

小さくなった水槽に浮き始める自分の体。

(まだ別れも言えていない。いつかまたあの子に会うためにも…自分を龍に…!)

毎日願った願いを、今、また。

そして意識は途切れた。



温かさで気づくと、まだ温かい土から、自分の体が空に急激に昇って行くのが分かった。

(あの温かさは、あの子の手…そして埋めてくれた陽のあたる土だ…)

あの子が見えた。見えなくなっていたはずの片目からもしっかりと。
自分が下を見るように、あの子は夕空を見ている。

(気づいてくれた…?また……いつか……)