エミリーは自分の手の中に残されたベルベットの小さな巾着に目を大きくさせてから、名前を聞きそびれた彼へと視線を戻すが、彫像の辺りに人の気配はすでになかった。
「ごめん、後で話すわ。私たちも行きましょう」
リタに微笑みかけながらベルベッドの巾着をポケットに忍ばせて、さきほどよりも少し先へと進んでいる列の最後尾に戻っていった。
小道を進むとより鬱蒼と草木が生い茂り、辺りも心なしか薄暗くなっていく。
凶暴な獣が飛び出してきそうな雰囲気にエミリーがリタへと身を寄せた時、大聖樹から戻ってきた聖女クラスの生徒たちとれ違う。
その輪の中には大聖女ロレッタもいて、「大聖樹がこんなにすごいだなんて」と興奮気味のエスメラルダを嬉しそうに見つめている。
とっても人の良さそうなお方だわ。
エミリーはそんなことを思いながら、周りの薬師クラスの生徒と同様にロレッタを眺めていると、突然、孫を微笑ましそうに見つめていた眼差しが弾かれたように移動した。
ロレッタの視線に捉えられたのはエミリーだった。
最初は戸惑ったが瞬きもせずじっと見つめられると何か探りを入れられている気分になり、少しばかり薄気味悪くなってくる。


