花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!


彼は誰かと話をしているようで、よく見ればその相手は刺客の男だった。

時折屋敷を指差しながら、少し得意げな様子でダリウスは男と話し続ける。

なにを話しているのだろうと嫌な予感を覚えた時、刺客の男が屋敷を見上げた。

にやりと笑ったその顔に、エミリーは言いようのない不安に襲われ、小さな手をぎゅっと握りしめた。





その晩、閉店後にアルフォンが屋敷を訪れ、調合室にいたエミリーも生成作業を中断し居間へ移動する。

不安だからと剣を携えているアデルを横目に見つつ、アルフォンは事態の深刻さを察したかのように顔色を青くさせる。


「すみません。ダリウスを問い正したところ、あの男にレオン様にオレリア様、それからエミリーちゃんのことまで聞かれ、知っていることはすべて答えたと。すみません、俺がダリウスを呼びに行かせたばかりに」


オレリアがアルフォンに「お前のせいじゃないよ」と声をかけて数秒後、ふたりの気怠げなため息が重なった。

やや間を置いてから、アルフォンが説明を続ける。


「守秘義務を破ったので今月分の減給を言い渡しましたが、実はあの男からレオン様が王子であると聞いたらしく、減給よりもそちらにひどく動揺している様子でした」