フィデル副団長の前まで進み出て、「頬に傷があるわ」と自分の頬を指さして教えてから、小さな両手を彼へと伸ばした。
フィデルはちらりとレオンを見てから、気まずそうにエミリーへと顔を近づける。
エミリーは先ほど白い土兎にもそうしたように、傷に手をかざし治療を施した。
「フィデルさん、謝らないでください。あなたのせいでもないし、私もこうしてちゃんと生きているし、それに子供の姿だといろいろ得することもあって面白いのよ」
フィデル副団長は姿勢を戻し、頬の傷が治っているのを触れて確認する。
ニコニコ笑っているエミリーに話しかけようとした瞬間、小さな体は後ろから伸びてきた手に捕まり、レオンの膝の上へと戻される。
独占欲を見せつけられたフィデル副団長は「感謝の言葉も述べさせてもらえないのですね」とわずかに苦笑いするも、再び表情を引き締めて今度は真っ直ぐにレオンを見据えた。
「レオン様、どうかこのまま一緒にモースリーへお帰りください。……大聖樹が枯れ始めています。毒の匂いがひどくなるに比例して獣の凶暴化が加速し、モースリーの街に獣が押し寄せてきている状態です」
「なんだって」
「団長の率いる部隊が総出で、それから腕利きの冒険者たちも招集し対処しておりますがきりがなく、いつまで凌げるか」


