花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!


学生を楽しんでいたあの頃、マルシェからの帰りに彼から同じ振るまいを受け、気恥ずかしくて頬を熱くさせたのを思い出す。

けれど、今は胸が苦しくて涙が溢れてくる。


「俺は、グラント王国エイヴァリー国王の息子、レオン・エイヴァリー。何かあったら遠慮なく俺を頼ってほしい。力になる」


うまく言葉にならなくて、エミリーは何度も頷き返す。

レオンは苦笑しながら、そっと抱きしめると、「付き合ってくれてありがとう」と優しい声で囁きかけた。

冷たい雨が降り続く中を、再び馬が駆け抜けていく。

沈黙の重さと雨の冷たさに表情も冴えないまま、エミリーはずっと自分の気持ちと必死に向き合っていた

レオンには、本当は生きていると打ち明けるべきだ。

けれどそれで、彼の身が危険に晒されることになってしまったら耐えられない。

……でも、これほど苦しんでいる彼を見ていられない。

ぐるぐる考えているうちに、エミリーとレオンを乗せた馬はヘンリットの町へ。

雨でも気にせずうろうろしている獣の横を高速で駆け抜けつつ、ふたりはオレリアの屋敷に無事到着する。

門扉から庭へと入り、玄関の前で馬を停止させる。

馬から降りて、馬を労うように体を撫でているレオンの横でエミリーはクシュンとくしゃみをした。