久しぶりに足を踏み入れた生まれ故郷のどかな風景はまったく変わっていなくて、エミリーの心は震える。
雨避けのためだけでなく、自分の顔を見られないようにとフードを被って、エミリーはしばらく町の様子を観察する。
オレリアの管理する聖樹からは距離があるからか、凶暴化した獣による被害は見つからず、ひとまずほっと胸を撫で下ろした。
ここまで来たのだからお父様とお母様に会いたい。
そうは思うが、さすがにそれをレオンに言うわけにもいかず、その上ここは子供の頃の自分を知っている人が多いため、エミリーの顔は次第に下を向いてばかりとなっていく。
花屋の前でレオンはいったん馬を降り、花束を購入する。
そして再び馬を走らせ、今度は町の外れで馬を停止させた。
どこに行くつもりだろうかと不思議に思っていたエミリーだが、ここまできてやっと彼の目的に気付かされる。
目の前に広がるのは墓地で、形だけでもと両親がここに自分の墓を建てたことをエミリーはオレリアから聞いている。
レオンだけが馬を降り、エミリーを乗せたまま手綱を引いて歩き出す。
雨音に混ざってレオンと馬の足音がやけに大きく響く。


