花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!



「速くて怖いか?」

「……う、うん。でも掴んでいたら平気だから気にしないで」


速さは、本当は怖くない。怖いと感じたのは、レオンをエスメラルダに取られてしまうこと。

レオンは大聖女の孫と結婚させられそうになったと言っていた。それはエスメラルダで間違いない。

彼が気持ちに踏ん切りをつけてモースリーに戻れば、エスメラルダと婚約するかもしれない。

そんなの絶対に嫌だと、気持ちばかりが強くなっていく。

三叉路に差し掛かり、レオンは馬をとめて地図で確認する。

整備されているふたつの道はそれぞれ隣国ユギアックとエミリーの故郷であるプランダの町へと繋がっている。

凶暴化した獣たちが増えている今、町は大丈夫だろうかと考えて不安になりながらプランダへ通じる道を見つめていると、レオンが馬の腹を蹴ってあとひとつの小道へと進んでいく。

林を抜けて緩い上り坂を駆け抜ければ、やがて道は森の中へ。

地面は所々木の根がむき出しになっているため進む速度を落として、レオンは周囲を見回しながら「獣の気配が一気に濃くなったな」と呟く。

やがて小屋の前に到着し、先にレオンが、続いてエミリーも馬から降りた。