大きく声を張り上げたが、獣犬たちはまったく動じない。
それどころか、隙をうかがうように身を低くしてエミリーと土兎のそばをうろつき始める。
近づいてきた一匹に向かって握りしめている太い枝を振り回す。
想像以上に怖いわと怖気付きつつ、武器になる魔導具を持ってくるべきだったと後悔する。
三匹同時に飛びかかってきたら、ただの棒切れではとてもじゃないが防ぎきれない。
自分の武器は光の魔力だけ。噛まれたら回復はできるけれど、追い払わない限りこの危機を脱せない。
どうすればいいと思いをめぐらせ、凶暴化した獣は光の魔力による清浄を嫌うのを思い出す。
清浄効果など発動させたことはないけどと躊躇ってなどいられない。やらなければこっちがやられてしまう。
息を吸い込み、獣犬に向かって伸ばした手の先へと気持ちを集中させたその時、「エミリー!」とオレリアの声が響いた。
一瞬遅れて澄んだ風がざっと吹き抜け、獣犬たちが慌てふためき出す。
玄関先に立っているオレリアが光の魔力の浄化効果を発動させ、ほんの数秒で庭全体が光に満たされていく。
二匹は門扉の格子の隙間をすり抜けてうまく外へと逃げて行ったが、残り一匹は混乱したようにエミリーに向かってきた。


