腕を地面に打ちつけつつも、エミリーは必死にポシェットを守ろうとするが、みすぼらしい見た目で、ひと目で荒くれ者だと分かる男にいとも簡単に奪い取られてしまう。
「返して!」
このお金は彼からもらったもの。絶対に奪われたくない。その一心でエミリーは男の足に掴みかかった。
「うるせえガキだな!」
男はエミリーの首を掴んで、そのまま持ち上げる。
エミリーは男の手を必死に叩き、足もバタつかせて抵抗するが、首を強く掴まれ徐々に苦しくなっていく。
男四人に行く手を塞がれていたアデルが箱をその場に投げ捨て、腰の短剣に手をかけた時、エミリーを締め上げていた男に向かって背後から炎が放たれた。
見事に命中し男の背中が燃え上がる。
「熱い!」と悲鳴を上げた男にエミリーは放り投げられ、そのまま誰かによって素早く受け止められた。
「こんな子供から金銭を奪うなんて、恥ずかしくないのか?」
自分を抱き止めてくれた相手の顔を見て、エミリーは目を見開く。助けてくれたのが、ちょうど心に思い描いていた美麗の彼だったからだ。
マルシェで会った時のように外套を纏ってはいるが、フードをかぶっていないためその美しい顔を隠すものは何もない。


