花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!


一息に言い切って大きく息をつく。

しっかりと凍りついた場の空気にすぐさま居た堪れなくなり、エミリーは「失礼します!」と泣きそうな声で叫んで、小走りで扉へ向かう。

「エミリー様、お待ちください」と侍従長が呼び止めたが、エミリーはあっという間に応接室を出て行ってしまった。

テド院長は勢いよく閉じた扉を唖然と見つめていたが、やがて侍従長とフィデル副団長へ視線を移動させ、ふっと笑みを浮かべる。


「大聖女まで断られてしまった。俺までふられたようなものだな」

「レオン様はふられてなどおりませんよ」


「いや、完全にふられただろ」と突っ込みを入れて来たテド院長を、侍従長はじとりと見やる。

あの髪飾りは、城にやってきた宝石商からレオンが購入したもの。その傍らに侍従長もいたため、蝶の形状や宝石の色などしっかりと覚えていた。

そして、エミリーが想い人がいると打ち明ける寸前、無意識にその髪飾りを触れていたのも見逃していない。

その心にレオン様のことを思い浮かべているに違いないと確信に近いものを得ていたため歯痒さが募る。

テド院長は腕を組んだ体勢でソファーの背もたれに寄りかかり、すっかりリラックスした様子となる。