女ったらし王子の花嫁だなんてとんでもない。
それに自分には素敵な想い人がいるのだからとエミリーは髪飾りをくれた彼の顔を思い浮かべた。
……それがまさかのレオン王子本人だなんて想像すらしないままに。
しかし、「え、嘘だろ」とテド院長に驚かれたことでエミリーはハッと我にかえり、しまったと青ざめる。
つい気持ちのままに、一国の王子からの求婚を断ってしまった。しかもレオン王子を「あの」呼ばわりまで。
無礼者と投獄されてしまうかもと恐る恐るフィデル副団長を見たが、なぜか彼は笑いを堪えている様子で、なにがそんなに面白いのよとエミリーは涙目になる。
「あの……誰かとお間違えでは? レオン様とお会いしたこともないのに私を花嫁にだなんて」
これこそ勘違いであって欲しいと願いを込めてエミリーが侍従長に訴えかけると、再びテド院長が目を大きくさせた。
「レオン王子と会ったことがないだって?」
「はい。たった一度も」
「お待ちください。エミリー様はレオン王子とお会いされています」
「いいえ、本当に面識がないのです」
焦って侍従長が訂正を入れるが、あの美麗な彼がレオン王子だと気づいていないエミリーはすっぱりと否定する。


