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――今年も桜がひらひら、空を泳いでいる。



花びらが、ひらひら揺れて、そして大好きな人の頭の上にのっかった。


それにそっと手をのばして、優しく触れる。


ブレザーの胸ポケットに花が付いてるのは、わうくんじゃなくて、私の方。


あの時と逆だ。


明日から学校に行かなくていいし、授業もしないんだ。


なんだか不思議だ。

まだ実感がわかない。



「明日から、どんな未来が待ってるんだろう」



手に持つ桜の花びらを見つめながら、そう呟いた。



「未来?…んーとね、朝起きたらまずトイレに行って、歯をみがくでしょ?」


「ふふっ…ちがうよ、そういうのじゃなくて、」


「へへっ、あっ、でもきっと俺、また二度寝しちゃうんだよね」


「それ学校遅刻だよ」



「それでね、


――俺の隣で寝てるもこちゃんを、ぎゅーって抱きしめるの」



………え?


「…わうくん、それ、…いつの話?」



「ん?未来のはなし」



ぶわっ…と、顔が熱くなった。



「……ぐすんっ……今日も癒やされました」



鼻声で言ったその言葉は、いつも私が心の中で思っていたこと。



「俺も、」


わうくんの顔がどんどん近づいてきて、

…あ…キスかな?

なんて少し期待して目を閉じる。


だけど全然触れないから、恥ずかしくなって目を開けた。


…ち、ちがったんでしょうか…?


確認するように目を開けた時、わうくんが私の唇に触れる寸前のところで止まっていることに気がついた。


……あれ…?


どうしたんだろうと目をぱちくりさせていると、わうくんはニヒッと笑って言った。




「毎日もこちゃんに癒やされてますっ」




出会った時から変わらない、


優しくて純粋で…癒やしの笑顔で。



見えないはずの、しっぽと耳が、

パタパタとご機嫌に揺れている気がした。



―――………


『俺の友達がね、桜は匂いなんかないって言うから、たしかめてたんだぁ』


『ちゃんと甘い香り、するんだけどなぁ…』


―――…


わうくんと出会った日のことが、頭に浮かぶ。



優しくて………甘い思い出。




「ねぇ、わうくん」



「…甘い香りがするね」




手のひらにあった花びらが風に揺らされて、ポカポカあたたかい、空に舞った。



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