「もこちゃんがんばれーー」
現在もこは、体育の授業でバスケットボールをしています。
そして今日は、高校生最後の体育。
クラスのみんなとこうして運動するのは、今日が最後だから、がんばらなくちゃ。
体育がとても苦手な私だけど、体を動かすことが嫌いなわけじゃないんです。
むしろ、
「もこちゃん!」
好きです。
「ぶへっ…」
クラスメイトからのボールを受け止めきれずに、顔面でキャッチ…しちゃうくらい、下手くそだけど……
「ぎゃーーっもこちゃん鼻血出てる!ごめん!ほんとごめん!」
「…ふへへ」
「血たらしながら笑わないで!すごく怖いからぁぁぁ」
こんなの痛くない。
だけど少し、恥ずかしかった。
…みんなが私を見てる
――「もこちゃんっ」
そんなとき、わうくんが体育館の入り口から走ってくるのが見えて、
………ホッとした
裸足だから、ペタペタ足音が鳴ってる。
「…わうくん…なんで?」
学年が違うから、会うことは滅多にないのに。
わうくんは、もうすぐで口につきそうだった血を、服の袖で拭ってくれた。
「あっ、だめだよ、汚れちゃう」
血って、なかなかおちないんだから。
「…んしょっ」
なんにも言わずに、わうくんは私をひょいっと持ち上げた。
周りから、きゃっと高い声が聞こえてきて、少しだけ頬が熱くなる。
…これは………お姫様だっこ…?
チラッと、わうくんを見上げると、へにゃりと優しい笑みを向けられてドキッとした。
「保健室まで運びます…お姫様!」
無邪気な笑顔に……
「えっ、わっ、あれ?!もこちゃん、鼻血すごいでてるっ、あっ」
「………ふへへ」
「もこちゃんー!!」
………のぼせそうです。
― 放課後 ―
「そういえば…授業中だったのに、どうしてすぐ私を助けに来てくれたの?」
「美術の授業で好きな絵を描きましょう!って言われたから、あそこで絵描いてたの」
「場所も自由だったんだよ」
「わぁ、そうだったんだ」
わうくん、どんな絵を描いたんだろう。
体育館の絵を描いたのかな?
あ、それとも体育館の近くには花壇があるから、お花を描いていたのかな?
「ねぇ、わうくん。どんな絵を描いたの?」
「みる?」
「いいの?」
わうくんはスクールバックの中から一枚の画用紙を取り出すと、それを私に見せてくれた。
「じゃーんっ」
「…へっ、これって………」
「もこちゃんがバスケしてるところ!」
「わた…し?」
「うんっ」
「だって、好きな絵を描きましょうって言われたから」
「えっと…、それはきっと…」
学校の中で、好きな景色を書きましょうって意味だったと思うんだけど……
けれど、あまりにもわうくんが無邪気に笑うから、私はその言葉を飲み込んだ。
「…ふふっ…」
わうくん、可愛い。
大スキ。
「あっ、もこちゃん絵みて笑った?……そんな変かなぁ…自信作なのになぁ…」
「ううん、変じゃない」
「ほんとっ?」
「…ほんと」
「へへっ…これ、もこちゃんにあげる!」
そのとき、見えないはずの耳としっぽが、またゆらゆらと揺れている気がした。
「ありがとう…大切にするね」
わうくんからもらったものは、
ぜんぶ…大切な宝物。
お家に帰った後すぐ、
マスキングテープで壁に絵をはった、
もこなのでした。
「ん〜、こっちの方がいいかなぁ」
「うーーん、でもやっぱりこっちっ?」