「進路希望、明日までだからはやく出せよー」


そんな先生の話を聞きながら、手に持っている白紙の紙を、ただジッと見つめていた。


最近の教室は、どこかピリピリ、キリキリとしている気がします。


まるで、時間が速く…忙しく流れてゆくみたいです。



わたしは…なにがしたいんだろう


まだ答えは出ないまま。



― お昼休み ―



「もこちゃん、なに見てるの?」


「あっ…ごめんね」


わうくんと一緒にいるのに、白紙の進路希望の紙をジッと見つめていることに気がついて、ハッと顔をあげた。


「しんろきぼう?…って、もこちゃんがなりたい将来ってこと?」

「…うん」


私がなりたい将来。


どれだけ考えても、正しい答えが分からない。

何を書くのがいいのか、なにがしたいのか、考えても分からない。


考えれば考えるほど、分からなくなっていくような気がする。



「……楽しみだねっ」



そんなとき、明るくて素直な声が、私の心にスッと入ってきた。


「……たの…しみ…?」


「うんっ」


「どんな楽しいことが、どんなおいしい食べ物が待ってるんだろうね」


満面の笑顔でそう言うから、悩んでいたことも忘れて、ふっと笑みが溢れた。



「おいしい食べ物が待ってるの?」


「うんっ…だって、どこになにがあるか、行ってみないとわからないでしょ?」



心が軽くなってゆく。


さっきまではすごく重くて、苦しかった。

ピリピリ、キリキリしていた。



「空の匂いは…桜の匂いはどんなだろうね」



ふにゃりと柔らかく微笑む大好きな人が、ふわりと私の頭を撫でる。



優しい手つきは、まるで大切なものを触るようで………とても甘い。



時間が…ゆっくり流れるみたいに、優しい。



「……少し、楽しみになった」



自分の未来を考えるのが、少し楽しみになりました。



ポカポカ。


今日も心があたたかくなった、
もこなのでした。